あなたのいちばん大きな資産は、何でしょうか。家でしょうか。それとも、証券口座の中の投資信託でしょうか。
実は、目立たないけれど、とても大きな資産があります。通帳にも、証券口座にも載っていません。毎月振り込まれる、公的年金です。

毎月振り込まれる「公的年金」を、資産として測り直す
今回は、この公的年金を「毎月入るお金」ではなく「資産」として測り直します。はかりを、2つ用意しました。
この記事でわかること
- はかり1:4%ルール換算。月15万円の年金は「4,500万円の資産と同じ働き」
- はかり2:現在価値。割引率3%で測ると「約3,100万円の資産と同じ価値」
- 家計の全体図に置くと、年金が6割以上を占める
- 取り崩しは主役ではなく上乗せ。支出の3層と「収入の床」という設計思想
数字の前に、ひとつだけ
ここまでの4回は、手元の資産を「どう取り崩すか」という話でした。下落の順番のリスク、数える発想と成功確率、そして前回のガードレール。今回は少し引いて、そもそもの土台を測ります。
前回、「基礎の生活費は公的年金でまかなう」とお話ししました。では、その年金は資産としてどれほどの大きさなのか。この問いは、証券口座の残高をどう増やすかという問いとは、方向が逆です。すでに持っているものの大きさを知る。それだけで、毎日残高を眺める落ち着かなさが、少し減ります。
今日の例
今日の例は、月15万円とします。年にして180万円の公的年金を、65歳から90歳までの25年間受け取るとします。

月15万円(年180万円)を65歳〜90歳の25年間。年金額は人それぞれなので、測り方だけ持ち帰る
年金の額は人によって違いますから、これはあくまで、はかりを使うための例です。ご自分の数字での測り方は、最後にご案内します。
はかり1:4%ルール換算
1つ目のはかりは、このシリーズでずっと使ってきた考え方の裏返しです。
もし、この年180万円を、公的年金ではなく自分の資産の取り崩しでまかなうとしたら。いくらの資産が必要でしょうか。第3回と第4回で目安にした、4%の取り崩し率で逆算します。180万円÷4%。答えは、4,500万円です。
つまり月15万円の公的年金は、「4,500万円の資産を、4%で取り崩し続ける」のと同じ働きをしてくれます。しかも相場に関係なく、途中で尽きることもありません。

相場に関係なく尽きない。ただし、資産のように残高は残らない
もちろん、厳密に同じではありません。年金は生きている限り続きますが、資産のように残高が残るわけではない。それでも、「同じ働きをする資産に換算したら」という意味で、これは正直なはかりです。
はかり2:現在価値
2つ目のはかりは、金融の教科書に載っている、正式な測り方です。現在価値といいます。
将来受け取るお金は、今のお金より少しだけ価値が低い。そこで、将来の180万円を1年ぶんずつ少し割り引いて、25年分を全部合計します。割り引く率は、年3%とします。株式の想定利回り5%より低くするのは、公的年金が国の制度にもとづく確実性の高いお金だからです。確実なお金ほど、小さくしか割り引かない。これが金融の約束ごとです。

灰色が額面の180万円、オレンジが「いまの価値」に割り引いた額。1年目は175万円、25年目は86万円
計算すると、約3,100万円になります(正確には3,134万円)。月15万円の年金は、いま3,100万円の資産を持っているのと同じ価値だ、という測り方です。
2つのはかりが、出そろいました

4,500万円と約3,100万円。物差しによって数字は変わる
4,500万円と、3,100万円。物差しによって数字は変わります。ですが、どちらで測っても、数千万円級の大きな資産であることは変わりません。

月10万円・15万円・20万円それぞれの換算表。どちらで測っても数千万円級
| 公的年金 | はかり1(4%ルール換算) | はかり2(現在価値・割引率3%) |
|---|---|---|
| 月10万円 | 3,000万円 | 約2,100万円 |
| 月15万円(例) | 4,500万円 | 約3,100万円 |
| 月20万円 | 6,000万円 | 約4,200万円 |
家計の全体図
では、この資産を家計の全体図に置いてみます。このシリーズの前提の家計です。金融資産が1,800万円。ここに公的年金を、控えめなほうのはかりで3,100万円として足します。

金融資産1,800万円+公的年金約3,100万円=約4,900万円。年金が6割以上
全体で、約4,900万円。年金が6割以上を占めました。目立たないけれど大きな資産は、証券口座の中ではなく、ここにあったわけです。残高の画面を毎日眺めるより、この全体図を一度知っておくほうが、よほど安心の土台になります。
取り崩しは、主役ではなく上乗せ
この全体図から、大事なことが2つ言えます。

基礎の生活費は大きな資産=公的年金が受け持つ。取り崩しはその上乗せ
1つ目。取り崩しは、主役ではなく上乗せです。基礎の生活費という、いちばん重い部分は、大きな資産である公的年金が受け持つ。だから前回のガードレールで、減額の年があっても生活の土台は壊れないのでした。
2つ目。支出を3つの層で考えると、設計が一気に楽になります。

必ず出ていく基礎の生活費/あれば嬉しいゆとりの費用/ときどき来る特別な出費
必ず出ていく、基礎の生活費。あれば嬉しい、ゆとりの費用。そして、ときどき来る特別な出費。このうち基礎の層を、年金という確実な収入で覆ってしまう。米国のFP(ファイナンシャルプランナー)は、これを「収入の床」と呼びます。床さえ張れていれば、上の2つの層は相場と相談しながら調整できる。じつはこれが、このシリーズ全体を貫く設計思想です。
注意点は2つ

年金額は人それぞれ。何歳まで受け取るかでも大きさが変わる
公的年金の額は、働き方や加入期間、受け取り始める時期によって、人それぞれ大きく違います。今日の月15万円は、あくまで例です。
それから、何歳まで受け取るかでも大きさが変わります。今日は90歳までの25年で測りましたが、長生きするほど、この資産はさらに大きくなります。公的年金は、長生きという、いちばん読めないリスクへの保険でもあるのです。
今日できること
ねんきんネット(日本年金機構)で、ご自分の受給見込み額を確認してみてください。そして、1つ目のはかりで資産に換算してみる。年額を4%で割るだけです。

年額÷4%=あなたの大きな資産。例:180万円÷4%=4,500万円
ご自分の、目立たないけれど大きな資産。その大きさが、今日から数字で言えるようになります。
そして、その数字を見たら、家計の全体図を一度だけ描いてみてください。金融資産の隣に、年金の換算額を並べる。「足りない」と感じていた不安の何割かは、見えていなかった資産を数えていなかっただけかもしれません。どう生きていきたいかを考える土台は、口座の残高より少し広いところにあります。
この記事の前提
月15万円(年180万円)の公的年金を65歳から90歳までの25年間受け取る例で計算しています。年金額は働き方・加入期間・受け取り開始時期により人それぞれです。ご自身の見込み額は「ねんきんネット」でご確認ください。
現在価値の計算は、割引率 年3%、年金現価係数17.413(正確な値は3,134万円)。家計の全体図は、シリーズ共通の前提(金融資産1,800万円・代表値)にはかり2の値を足した例です。1,800万円は特定の誰かの家計を想定したものではありません。数字はご自分のものに置き換えてお使いください。
自分の数字で試す
シリーズの計算ページの入口はこちらです。→ https://still-building.com/retire/
動画で見る
動画 第5回『目立たないけれど、大きな資産——実は公的年金です』(7:47)
https://www.youtube.com/watch?v=HLk4d2JY5p4
25本の棒が並んで積み上がる様子と、家計の全体図が積み上がる様子は、動画のほうが分かりやすいかもしれません。
シリーズ全9回の記事・動画・計算ページの目次はこちら → 「リタイア設計」全9回の目次(動画の再生リストはこちら)
前の記事 → 第4回「ガードレール——毎年の点検で、使えるお金を増やす」
次の記事 → 第6回「ときどき来る大きな出費に、備える——特別費と生活防衛資金」
出典
- ねんきんネット(日本年金機構)。ご自身の年金見込み額の確認 https://www.nenkin.go.jp/n_net/
- William P. Bengen "Determining Withdrawal Rates Using Historical Data" Journal of Financial Planning(1994)。はかり1で使った「4%」の原典
免責
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の購入や投資判断を勧誘するものではありません。金額はすべて前提にもとづく試算・例示であり、実際の年金額は個人により異なります。制度は改正されます。最新の制度やご自身の受給見込み額は公的な情報でご確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。