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リタイア設計 2026-09-02

「成功確率」の正しい読み方——85%は「15%で破産」ではない

未来は当てられません。でも「数える」ことはできます。1,000通りの30年を走らせると851本が持ち、149本が途中で尽きました。成功確率85%の正しい読み方、取り崩し率との「階段」の関係、そして99%がなぜ「使わなすぎ」のサインなのか。合否の点数ではなく、設定を調整する「つまみ」として使う方法です。

#定年後#老後資金#取り崩し

前回、同じ下落でも来る時期によって残る資産がまるで違う、という3人の物語を見ました。でも、ここで困ったことがあります。自分の30年がどの物語になるかは、誰にもわからない、ということです。

予想できない未来を、どう扱うか。今回は、米国の実務家が使っている、その答えの話です。

この記事でわかること

数字の前に、ひとつだけ

この回に出てくる「成功確率」は、合格発表ではありません。自分の計画がいまどのあたりに立っているかを知り、設定を調整するための道具です。

第1回で書いたとおり、ライフプランは「どう生きていきたいか」を自分に問う作業です。成功確率は、その答えを数字で確かめる方法のひとつであって、数字が生き方を決めるわけではありません。高ければ良い、というものでもないことは、この記事の後半で確かめます。

当てるのをやめて、数える

米国の実務家の発想は、こうです。未来を1回だけ予想して当てにいくのをやめる。かわりに、ありえる未来を何百通りも作って、そのうち何本が最後まで持ったかを数える。

当てるのを、やめる。数える。

サイコロの次の目は当てられない。でも1000回振れば、出方は正確にわかる

たとえるなら、サイコロです。次にどの目が出るかは、誰にも当てられません。でも、1,000回振れば、それぞれの目がどのくらい出るかは、かなり正確にわかります。当てられないものを、数えられるものに変える。これが発想の転換です。

小さく考えてみます。まず、未来を10通りだけ作って走らせるとします。

まず、10通りだけ走らせてみる

横棒=資産が何年持ったか。30年持ったのは9本÷10本=ざっくり9割

30年持った未来が9本なら、ざっくり9割。そんな数え方です。これをうんと増やします。コンピューターなら、1,000通りの30年を一瞬で走らせることができます。

このやり方には名前がついています。モンテカルロ・シミュレーション。ルーレットで有名な、カジノの街の名前から来ています。米国のFP(ファイナンシャルプランナー)が成功確率を計算するときの、標準的な方法です。

1,000通りの未来を走らせる

前提はいつもの数字です。株式インデックスファンドで運用する資産1,800万円、取り崩しは年72万円、想定利回りは年5%、期間は30年。そして今回から前提がひとつ増えます。ばらつき、年15%。利回りは平均5%でも、毎年の値動きは上下にぶれます。そのぶれ幅です(出典は記事末尾の「この記事の前提」に書きました)。

この前提で、1,000本の30年を走らせた結果がこの図です。1本の線が、ひとつの「ありえた30年」です。

1000通りの未来

白っぽい線は30年持った未来、オレンジの線は途中で資産が尽きた未来。束の下のほうに沈んでいく線が見えます

1,000本のうち、851本が30年持ちました。成功確率、85.1%です。

851本=85.1%

1,800万円から年72万円の取り崩しは「100回中85回はうまくいく計画」と数えられた

取り崩す「率」を変えると、どうなるか

では、取り崩す率を変えると、この数字はどう動くのか。同じ条件で、率だけを変えて数え直しました。

取り崩し率と成功確率の階段

3%なら96%、4%なら86%、5%なら69%、6%では51%。緑の帯が米国の実務で目安とされる85〜95%

取り崩し率 年間の額 成功確率
3% 54万円 96%
3.5% 63万円 92%
4% 72万円 86%
4.5% 81万円 78%
5% 90万円 69%
6% 108万円 51%

取り崩し率と成功確率は、きれいな階段の関係です。つまり「いくらまで使っていいか」という第1回からの問いは、「何%の成功確率なら受け入れるか」という問いに置き換えられます。

99%は「使わなすぎ」のサイン

ここで、この回でいちばん大事な話をします。成功確率は高いほど良いのか。99%を目指すべきなのか。米国の実務家の答えは、意外にも「ノー」です。

99%は「使わなすぎ」のサイン

どんな相場にも耐える計画=大多数の未来では、使えたお金を大量に残して終わる

99%の計画とは、どんな悪い相場が来ても耐えられるほど、取り崩しを小さくした計画です。ということは、普通の相場や良い相場が来た大多数の未来では、使えたはずのお金を大量に使い残して人生が終わる、ということです。だから99%は、安全の証明ではなく「使わなすぎ」のサインと読みます。

成功確率85%の、正しい読み方

もうひとつ、読み方の大事な約束があります。成功確率85%は、「15%の確率で破産する」ではありません。

成功確率85%の、正しい読み方

人は破産まで直進しない。減ってきたら調整する

正しくは、「15%の確率で、どこかの年に、支出の見直しが必要になる」です。現実のリタイア生活では、資産が減ってきたら、人は使い方を調整します。破産まで一直線に進む人は、いません。

もう少し、この15%の中身を見てみます。尽きた149本が、何年目に尽きたのかを数えました。

尽きた149本は、いつ尽きたか

最初の10年で尽きた未来はゼロ。いちばん早くても11年目。尽きた未来の8割は21年目より後

最初の10年で尽きた未来は、1,000本中ゼロでした。いちばん早い未来でも11年目。そして尽きた未来の8割は、21年目より後でした。

つまり、計画の不調は、ある日突然やってくるのではありません。資産の減り方を見ていれば、何年も前から兆しが見えます。気づいてから、使い方を調整する時間は十分にある。これが、成功確率85%の実際の姿です。

成功確率の捉え方一覧

目安として、数字ごとの捉え方を一覧にしておきます。

成功確率の捉え方

成功確率は合否の点数ではなく、設定を調整するための「つまみ」

成功確率 捉え方
〜70% 取り崩しが多すぎるサイン。設定の見直しを検討
70〜85% 点検と調整を前提にすれば、成り立つ範囲
85〜95% 米国の実務で目安とされるゾーン(90%前後)
95〜99% かなり控えめ。使い残しが大きくなりやすい
99%〜 「使わなすぎ」のサイン。もっと使ってよい

だから米国の実務では、90%前後を目安に置いて、この数字を合否の点数ではなく、設定を調整するための「つまみ」として使います。

公的な道具との役割分担

ちなみに、日本にも、だれでも気軽に使える公的な道具があります。金融庁が提供しているライフプランシミュレーターです。収入や支出を入れると、将来の家計の推移を表とグラフにしてくれます。安心して使える、良い道具です。表を作るなら、これで十分だと私は思います。

道具の役割分担

表を作るのは公的な道具。持ちこたえるかを数えるのが今回のやり方

ただ、仕組みに注目してください。利回りを1つ決めて、未来を1本の線で描く。第1回でお見せした、私が作っていた表と同じ作りです。1本の線は、下落の順番を扱えません。だから、成功確率も出せません。

これは、どちらが良い悪いではなく、役割の違いです。表を作るのは公的な道具。今回のやり方は、その表が持ちこたえるかを数えて、計画の精度をもっと上げるための道具です。

今日できること

ご自分の取り崩し率を、ひとつ計算してみてください。1年間に取り崩す額を、資産の額で割るだけです。シリーズの前提なら、72万円÷1,800万円で4%です。

今日の一歩

その率が、階段のどこに立っているかを見る

その数字が、さきほどの階段のどのあたりに立っているか。それを知るだけで、自分の計画の現在地が見えてきます。

そして、その現在地を見て「もっと控えめにしなければ」と反射的に思う前に、一度だけ立ち止まってみてください。99%を目指すことは、使えたはずのお金を残して終わることでもあります。何のために取り崩すのか。数字は、その問いに戻るための道具です。

この記事の前提

シリーズ共通の前提です。金融資産1,800万円、毎年72万円(月6万円)の取り崩し、期間30年、想定利回り年5%、ばらつき(年率標準偏差)15%。運用対象は株式のインデックスファンドを想定しています。計算はすべて自作のシミュレーション(モンテカルロ法・1,000〜1万通り)によるものです。

「ばらつき 年15%」は、主要な株式インデックスファンド(eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)、eMAXIS Slim 米国株式(S&P500))の実績リスク値(1年・3年・5年、2026年7月末時点、日本経済新聞社の投信データ)の平均が約14.5%であることを参考に置きました。ファンド名は数値の出典として記載しているものであり、特定の商品を推奨するものではありません。

この1,800万円は、手法と考え方を一緒に考えるために置いた代表値であり、特定の誰かの家計を想定したものではありません。数字はご自分のものに置き換えてお使いください。

自分の数字で試す

📊 成功確率を、自分の数字で確かめる(計算ページ)

シリーズの計算ページの入口はこちらです。→ https://still-building.com/retire/

動画で見る

動画 第3回『「成功確率」の正しい読み方』(9:51)

https://www.youtube.com/watch?v=fGBrOF4zKkY

1,000本の線が束になっていく様子と、尽きた時期の棒が順に立ち上がる様子は、動画のほうが分かりやすいかもしれません。

シリーズ全9回の記事・動画・計算ページの目次はこちら → 「リタイア設計」全9回の目次(動画の再生リストはこちら

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出典

免責

本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の購入や投資判断を勧誘するものではありません。成功確率は前提にもとづく試算であり、将来の結果を保証するものではありません。制度・税制は改正されます。実際の設計にあたっては公的な情報でご確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。