このシリーズでは、8回にわたって道具を1つずつ配ってきました。順序リスク。取り崩しの単価。成功確率。ガードレール。公的年金。3つの袋。バケツ配分。そして、スマイルカーブ。

今日は、それを1枚に並べます。並べる順番は、動画の順ではなく、手を動かす「決める順番」
今回は、それを1枚に並べます。順番は動画の順ではありません。あなたが実際に手を動かす、決める順番に並べ替えます。
この記事でわかること
- 8つの道具を「測る/決める/守る」の3つのまとまりに並べ直す
- 毎年の運用は、年に1回の点検だけ。見るのは前年の相場がプラスかマイナスか、それだけ
- この設計の精度を上げる方法=自分自身のお金のデータを持っていること
- 税金は口座の種類で変わる。NISA口座は非課税/特定口座などは利益の部分に約2割
- このシリーズで扱わなかった論点(どの口座から先に取り崩すか)と、その理由
- 判断力が落ちたあとの設計。財産の一覧/ありかを伝える/気づく人を決めておく
数字の前に、ひとつだけ
最終回なので、第1回に書いたことをもう一度置いておきます。ライフプランは、数字だけの計画ではなく、正解を求めるものでもなく、「これからどう生きていきたいか」を自分に問い、少しずつ決めていく作業です。
8つの道具は、その問いに答えるためのものではありません。答えを、安心して数字に落とすためのものです。設計図が完成しても、何に使うかは設計図の外側にあります。そのことを忘れないでいただけたら、この9回は役目を果たしたことになります。
設計図の全体:測る、決める、守る
これが、全体図です。道具は8つ。大きく3つのまとまりに分かれます。測る。決める。守る。最初に自分の現在地を測り、次にいくら使うかを決め、最後にそれを相場から守る。この順番です。

1. 測る(①②)→ 2. 決める(③④⑤)→ 3. 守る(⑥⑦⑧)
1. 測る=自分の現在地
① 収入の床を測る(第5回)。 毎月入る公的年金は、通帳に載らない大きな資産です。月15万円なら、4%で取り崩す資産に換算して4,500万円分。ここが、あなたの家計の土台になります。
② 支出を3つの袋に分ける(第6回)。 毎月必ず来る出費。見送れる出費。突発の出費。この3つに分けます。とくに、年に何回かの特別費を見落とすと、計画は静かに崩れます。実測では、成功確率が85.6%から63%まで落ちました。
2. 決める=いくら使うか
③ 取り崩し額を決める(第2回)。 同じ資産でも、取り崩す率が上がるほど危険地帯に入っていきます。
④ 成功確率で確かめる(第3回)。 ここで大事なのは読み方でした。成功確率は、高いほど良いのではありません。99%は安全の証明ではなく、「使わなすぎ」のサインです。
⑤ 使い方に傾斜をつける(第8回)。 老後の支出は一定ではありません。実測では、年間およそ1%ずつ減っていきます。それを織り込むと、守りの水準を変えないまま、初年度は81.6万円まで使えました。
測って、決める。ここまでが、計画づくりです。
3. 守る=相場から守る
ここからは、相場が計画を壊しにくる話になります。
⑥ 下落の順序に備える(第1回)。 同じ平均利回りでも、下落が序盤に来るか終盤に来るかで、結果はまったく変わりました。積み立てているあいだは時間が解決してくれます。しかし取り崩しているあいだは、下がった年にも必ず売らなければなりません。
⑦ 暴落準備金を置く(第7回)。 取り崩しの2年分、例では144万円を、現金と無リスク資産で分けて持っておきます。これがあると、下落の翌年に株を売る場面のおよそ7割を避けられました。
⑧ 毎年の点検ルール(第4回)。 ガードレールです。相場が良い年にはルールに従って増額する。この仕組みがあると、使えるお金が445万円増えました。

数字はすべてシリーズ共通の前提(1,800万円・年72万円・30年・平均5%)による試算
| 道具 | 回 | 代表する実測 | |
|---|---|---|---|
| ① | 収入の床を測る | 第5回 | 月15万円=4,500万円分 |
| ② | 支出を3つの袋に分ける | 第6回 | 特別費の見落としで85.6%→63% |
| ③ | 取り崩し額を決める | 第2回 | 率が上がるほど危険地帯へ |
| ④ | 成功確率で確かめる | 第3回 | 99%は「使わなすぎ」のサイン |
| ⑤ | 使い方に傾斜をつける | 第8回 | 年1%逓減で初年度81.6万円 |
| ⑥ | 下落の順序に備える | 第1回 | 同じ平均でも順番で変わる |
| ⑦ | 暴落準備金を置く | 第7回 | 2年分144万円で約7割を回避 |
| ⑧ | 毎年の点検ルール | 第4回 | ガードレールで+445万円 |
測る、決める、守る。これで、8つの道具が1枚になりました。
年に1回の点検日:決断ではなく、点検
では、この設計図を毎年どう使うのか。実際の運用は、驚くほど単純です。年に1回、点検日を決めます。その日に見るのは、前年の相場がプラスだったか、マイナスだったか。それだけです。

前年がプラスなら売って生活口座へ+ガードレールの点検。マイナスなら売らずに暴落準備金から。どちらの年も支出は年1%ずつ下げる
- 前年がプラスだった年は、株を売って1年分を生活口座へ移します。そのついでに、ガードレールの点検をします。取り崩しの率が下限を割っていれば、増額していい年です
- 前年がマイナスだった年は、売りません。暴落準備金から出します。そして相場が戻った年に、2年分へ補充して元に戻します
- どちらの年でも共通することが1つ。支出は、年に1%ずつ下げていきます

去年の相場がプラスかマイナスか → 今年のはじめの点検日 → 今年1年の動き(売る/売らない)が決まる
1年に1回、この順に見るだけです。これは、決断ではありません。点検です。
精度を上げるには:自分のお金のデータを持つ
ここまで、設計図と年に1回の点検をお話ししました。最後に、この設計の精度を上げる方法について、私自身が行き着いた結論をお話しさせてください。答えは、単純でした。自分自身のお金のデータを持っていることです。

毎月の入出金/いまの資産の総額/資産の種類ごとの内訳。この3つが手元にあるかどうかで、答えの確かさが変わる
毎月の入りと出。いまの資産の総額。そして、資産の種類ごとの内訳。この3つが手元にあるかどうかで、同じ計算をしても答えの確かさがまるで変わります。
このシリーズは、ずっと数字で数える手法をとってきました。だからこそ、入れる数字が自分のものであるほど、出てくる答えは正確になります。逆に言えば、他人の平均値で計算しているうちは、それは他人の設計図です。

おすすめは特別なことではない。家計簿をつける/資産の残高を確かめる/習慣にする
もちろん、これはあくまで予測です。シナリオどおりにいかないこともあるでしょう。それでも、起こりうることを考えながら行動していると、心の平静を保ちやすくなります。ですから、おすすめしたいのは特別なことではありません。家計簿をつける。資産の残高を確かめる。それを日頃の習慣にしておく。それが、8つの道具をあなた自身のものにする、いちばん確かな方法です。
税金は、口座の種類で変わる
ここで、税金について一言だけ触れておきます。税金の扱いは口座の種類で変わります。分けて考えると単純です。

NISA口座=利益に税金はかからない(非課税)/特定口座など=増えた分(利益)に約2割。元本にはかからない
- NISA口座なら、利益に税金はかかりません。非課税です
- NISA以外、たとえば特定口座なら、利益に対しておよそ2割がかかります。かかるのは資産の全体ではありません。増えた分、つまり利益の部分にだけです。元本にはかかりません
このシリーズの前提1,800万円は、NISAの生涯投資枠の中に収まるイメージで置いてきました。ですから、これまでの試算では税金を引いていません。NISAの枠を超える分や特定口座で持っている分は、取り崩すときに利益から約2割が引かれると考えてください。制度改正によって扱いは変わります(2026年9月現在の制度にもとづく説明です)。個別の判断は税理士等の専門家にご相談ください。
このシリーズで、扱わなかった論点
このシリーズで、正面から扱わなかった論点が1つあります。どの口座から先に取り崩すか、という論点です。

どの口座から先に取り崩すか。日本では保険料や医療費の負担にも関わる。個別の事情で答えが大きく変わり、制度改正の影響も強い
日本では、取り崩し方が保険料や医療費の負担にも関わってきます。ただ、これは個別の事情で答えが大きく変わり、制度改正の影響も強い。一般論として語ると、かえって誤解を招きます。ですから、このシリーズでは扱いませんでした。そういう論点がある、ということだけ頭の隅に置いておいてください。
判断力が落ちたあとの設計
最後に、日本ではあまり語られない論点を1つ。判断力が落ちたあとの設計です。どれだけ精緻な計画も、実行できる状態が保たれていなければ意味がありません。年に1回の点検すら、いつか自分ではできなくなる日が来ます。

1. 財産の一覧を作る(1枚の紙で足りる)/2. ありかを伝えておく(中身ではなく、ありか)/3. 気づく人を決めておく(点検日に一緒に見る人)
やっておくことは、3つです。
- 財産の一覧を作っておく。 どこに、どんな口座があるか。1枚の紙で足ります
- その紙のありかを、信頼できる人に伝えておく。 中身ではなく、ありかです
- 異変に気づいてくれる人を決めておく。 年に1回、点検日に一緒に見てくれる人がいれば、それがいちばん確実です
おひとりで暮らしている方には、この3つが、今回の話のなかでいちばん大事かもしれません。
1,800万円は、代表値です
このシリーズは、1,800万円という数字を置いて話を進めてきました。現実的な数字ではない、と感じた方もいらっしゃると思います。

8つの道具そのものは、金額によらない。資産が半分でも倍でも、やることは同じ
この1,800万円は、いくつかの手法と考え方とその本質を、みなさんと一緒に考えていくために置いた代表値です。特定の誰かの家計を想定したものではありません。ですから、8つの道具そのものは金額によりません。収入の床を測ることも、支出を袋に分けることも、下落の年に売らずに済ませることも、資産が半分でも倍でも、やることは同じです。数字はご自分のものに置き換えてください。道具は、そのまま使えます。
今日できること
まとめます。測って、決めて、守る。道具は8つ。運用は年に1回の点検だけ。そして、いつか自分で点検できなくなる日のために、紙を1枚用意しておく。

1. 8つのうち、いま埋まっていないものを1つ選ぶ 2. 年に1回の点検日を、カレンダーに登録する
今日の一歩は、2つです。1つ、この8つのうち、いま埋まっていないものを1つ選んでください。2つ、年に1回の点検日をカレンダーに登録してください。
そしてもうひとつだけ。設計図が埋まったら、第8回の一歩に戻ってみてください。元気なうちにしかできないことを、1つ書き出す。8つの道具は、その1つを安心して実行するためにあります。9回にわたって、お付き合いいただきありがとうございました。
この記事の前提
シリーズ共通の前提です。金融資産1,800万円、毎年72万円の取り崩し、期間30年、平均利回り年5%、ばらつき(年率標準偏差)15%。成功確率や金額はすべて1万通りのシミュレーション(第3回以降と同一の乱数列で公平比較)による試算です。
1,800万円という金額は、手法と考え方とその本質を一緒に考えるために置いた代表値であり、特定の誰かの家計を想定したものではありません。数字はご自分のものに置き換えてお使いください。税金の説明は2026年9月現在の制度にもとづきます。
自分の数字で試す
前提条件シート(PDF)はこちら → https://still-building.com/retire/worksheet.pdf
動画で見る
動画 第9回『8つの道具が、判断基準になる——あなたのリタイア設計を完成させる』(11:45・最終回)
https://www.youtube.com/watch?v=2WqVnlBIq0o
8つの道具が「決める順番」に並んでいく様子と、年1回の点検日の流れは、動画のほうが分かりやすいかもしれません。
シリーズ全9回の記事・動画・計算ページの目次はこちら → 「リタイア設計」全9回の目次(動画の再生リストはこちら)
前の記事 → 第8回「使わずに終わるのも、失敗です——老後の支出は一定ではありません」
最初の記事 → 第1回「あなたのライフプラン表は、なぜ当たらないのか」
シリーズの出典(各回で紹介したもの)
- ガードレール方式:Guyton & Klinger(2006)Journal of Financial Planning
- 成功確率の読み方:Michael Kitces "Renaming Outcomes"/Vanguard の動的支出に関する研究
- バケツ配分:Harold Evensky の現金準備の考え方(1980〜90年代)/Christine Benz・Morningstar の3バケツ
- 支出のスマイルカーブ:David Blanchett "Exploring the Retirement Consumption Puzzle" Journal of Financial Planning 27(5), 2014
- 書籍:ビル・パーキンス『DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』
- 4%ルールの原典:William P. Bengen "Determining Withdrawal Rates Using Historical Data"(1994)
- 公的:金融庁 ライフプランシミュレーター https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/lifeplan-simulator/
- 公的:ねんきんネット(日本年金機構) https://www.nenkin.go.jp/n_net/
免責
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の購入や投資判断を勧誘するものではありません。金額はすべて前提にもとづく試算・例示であり、将来の運用成果を保証するものではありません。制度・税制は改正されます。実際の設計にあたっては公的な情報でご確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。