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実験ノート 2026-06-24

なぜ銀行のサイトは「自動入力」できないのか——非エンジニアが診断ツールを作って確かめた話

ほかのサイトはちゃんと入るのに、このサイトだけパスワードが自動入力されない——よく聞かれるこの疑問を、非エンジニアがブラウザのデベロッパーモードと自作の診断ツールで解明。古いサイトのHTMLを実際に覗き、原因と「古いサイトの見分け方」を確かめた記録。

#非エンジニア#Claude Code#個人開発#バイブコーディング

「このサイトだけ、パスワードが自動で入らないんです」

以前、1Password——パスワードを安全に保管してくれるアプリ——を使っている友人から、こう聞かれたことがあります。

「ほかのサイトはちゃんと自動で入るのに、このサイトだけ入らない。私のやり方が悪いんでしょうか?」

同じようなことを、ほかでも時々聞かれます。正直に言うと、私はこの質問にうまく答えられずにいました。「相性が悪いみたいですね、手動で入力しましょう」とお茶を濁すことがほとんどでした。でも相手は納得していませんし、私自身も、なぜ入らないのか本当のところを分かっていませんでした。

「あなたのやり方は間違っていませんよ」と言いたいです。でも、その根拠を見せられません。それがずっと心残りでした。

原因は「サイトの作り」のほうにあるのでは?

そこで今回、本気で確かめてみることにしました。手がかりは、ブラウザに最初から付いている「デベロッパーモード」です。Webページを右クリックして「検証」を選ぶと、そのページが裏側でどう作られているか——HTMLという設計図——が見えます。

題材は、私自身が「ほかと全然ちがう」と感じていた、ある銀行(仮にA銀行とします)のログインページにしました。

開いてみて、いちばん上の一行に目が留まりました。

<!DOCTYPE html PUBLIC "-//W3C//DTD HTML 4.01 Transitional//EN">

これは「このページは HTML 4.01 という規格で作られています」という宣言でした。HTML 4.01 が決められたのは 1999年。つまり、A銀行のこのページは、20年以上前の設計思想のまま作られているということでした。

自動入力がうまく働くには、入力欄に「ここはパスワード欄ですよ」という_名札_(autocompleteという仕組み)が付いている必要があります。ところがこの名札を付ける習慣が広まったのは、もっとずっと後——HTML5という新しい規格が登場した2014年以降になるそうです。古い時代に作られたページには、そもそも名札という概念がありませんでした。

「入らない」のは、利用者のせいではありませんでした。サイトが、自動入力という仕組みが生まれる前の作りだったのです。

LLWhy_Bank_Passwords_Won_t_Auto-fill_-_Slide_1.png

RWhy_Bank_Passwords_Won_t_Auto-fill_-_Slide_2.png

せっかくなら、ボタン一つで分かる道具にしたい

ただ、誰かに聞かれるたびにデベロッパーモードを開いてHTMLをスクロールするのは、現実的ではありません。そこで、AIと一緒に「ボタンを一回押すだけで、そのページを診断してくれる道具」を作ることにしました。ブックマークレットという、ブラウザのお気に入りに登録できる小さなプログラムです。

正直、作る過程ではつまずきました。最初、ボタンをお気に入りバーにドラッグして登録したつもりが、「ボタン」ではなく「ページそのもの」が登録されてしまい、まったく動きません。原因を一つずつ切り分けて、最終的にコードを直接コピー&ペーストする方式に変えたら、すんなり動きました。こういう小さな失敗と修正の積み重ねが、いちばん勉強になりました。

完成した道具は、ログイン画面でボタンを押すと、画面の右上にこう表示してくれます。

古いサイトを、いくつか診断してみました

道具ができたので、いくつかのサイトを診断してみました。

サイト HTMLの世代 自動入力の判定
A銀行 HTML 4.01(1999年) × できない
B証券 XHTML 1.0(2000年) △ 不安定
世界的に有名なある投資会社 HTML 4.0(1997〜98年) (古い作り)
ふつうのブログ HTML5(2014年〜) ○ 問題なし

面白いのは、世界的に有名なある投資会社のサイトも、1997〜98年のHTMLのままだったことです。古い文字装飾のタグが18個も残っていました。世界的な大企業が、あえて20年以上ページを変えていない——これはこれで一つの哲学なのかもしれません。

そして気づいたのは、銀行や証券会社のサイトは、軒並み古い作りのままだということです。理由はおそらく、堅牢さと安定を最優先して、動いているものをむやみに作り替えないからです。古いことは、必ずしも悪いことではありません。

まとめ:「いつ頃のサイトか」で見分けられる

ここまでの調べで、こう説明できるようになりました。

自動入力の「名札」が一般的になったのは、だいたい 2015年前後です。だから、それより前に作られて、その後リニューアルしていないサイトは、自動入力に対応していないことが多いのです。

ひとつだけ注意です。「HTMLが古い=必ず入らない」とは限りません。古いサイトでも、きちんと対応していれば、自動入力ができるようになっています。古い土台でも名札を後から足せば対応できますし、逆に新しいサイトでも名札を付け忘れていれば入りません。だからこそ、年代はあくまで目安として、最後は実際に診断して確かめるのがいいと思います。

次に同じことを聞かれたら、私はもう、お茶を濁さずに済みます。画面を見せながら、こう言えるようになりました。

「操作は間違っていませんよ。このサイトは2000年ごろの古い作りで、今の自動入力の仕組みにまだ対応していないんです」

分からないことを、人に聞いて終わりにするのではなく、自分で道具を作って確かめました。エンジニアでなくても、AIと一緒なら、それができる時代になりました。今回いちばんの収穫は、サイトの謎が解けたことよりも、その手応えのほうだったかもしれません。